人生100年時代のM&A物語

49才の時父親が創業した会社を、父親在命中にM&Aで売却。その後、売却益で第2創業。売却決断実践から20年の経営者人生を綴ります。

取締役「妻」というM&Aの偉大な協力者 その4

その3からの続きです。


自社の問題点や顧客動向を掴むには、経営者自らがあらゆる問題意識を持つことが重要です。私自身経営に対する様々な問題意識を持っていましたので、この問題意識を現状分析する上で「取締役社長室長」という妻の役職は適役でした。


私が様々な形で社員とコミュニケーションをとろうとしても、社員は社長と社員の関係という立場でしか交流しようとはしません。様々な悩みを傾聴しているつもりでも、終極は自分の考えを押しつけ、自分の考え方に社員の考えを変えようとしているだけだったかもしれません。その点、妻のコミュニケーション姿勢と傾聴スタイルは自然体なのです。自然体で社員の悩みを聞き、コミュニケーションを図ろうとすれば、妻のファンは多くなります。


妻への相談は、仕事に関しての相談が1割、社内の人間関係の悩みが2割、後の7割は、子育ての問題、孫の自慢話への傾聴、PTA、近所づきあい、夫婦関係等々、仕事にあまり関係のない悩みの傾聴であったかもしれません。しかし、自社の経営に問題意識をもって、社員と接していると、仕事に係わりのないと思える相談内容からも、仕事への不満を遠まわしに相談していることもあり、問題点の本質が見えてきます。さまざまな相談内容を咀嚼し問題点の本質を見極めることができたのです。


私が妻に与えた「取締役社長室長」という肩書きは、社員の悩み相談係りであり、その本質をさぐりながら、私に助言するのが役目です。その助言を基に、私がさらに現状を分析し、解決の手段を決めていくというスタンスで経緯していました。妻は、経営参謀としては微力でしたが、事務室に机を置くということで、組織の問題点や、財務、顧客動向、経営状況の実態を自分の眼で確認することができ、私の経営に対する考え方の源を、次第に理解できるようになってきたのです。


このような妻の仕事への従事スタイルは、M&A売却で第2創業を行うという私の考えに同調する結果となり、同調どころか、この決断において私の肩を「ポン」と押してくれたのです。後継者が、会社を売却し新しい会社を作ると妻に告げた場合、一般的には必ず反対されるはずです。会社の状況を知らない後継者の妻は、収入の閉ざされることを一番に恐れます。そこに世間体も重なりあいます。


その5に続きます。