人生100年時代のM&A物語

49才の時父親が創業した会社を、父親在命中にM&Aで売却。その後、売却益で第2創業。売却決断実践から20年の経営者人生を綴ります。

語り部の妻からのメッセージ

「取締役妻という偉大な協力者」をご笑読いただきありがとうございました。私は文面にも登場している、語り部鈴木均の妻でございます。彼の文章には、恐ろしいほどの説得力があります。実際に経験したからこそ書ける、皆さんへのアドバイスだと思います。机上論ではなく、現実の生々しい内容も含まれているので他人事として目を背ける方もいらっしゃるかもしれません。


私は縁があって44年前に彼と結婚しました。長男でありましたが、両親が経営する会社は義姉夫婦が事業承継の予定でしたので、私達夫婦は東京で自分達なりの将来像を持って暮らしていました。


人生というのは本当にいろいろあるものですね。特に女性は結婚する相手によっても人生が変わっていくものです。結局、義姉の離婚や諸事情で、夫が両親の経営する会社を承継することになり、東北の地に戻って来たのです。


入社してからM&Aで会社を売却するまでの20数年間、創業者である義父と、後継者である夫の関係は、あまり良いものではありませんでした。


当初、私は育児中で会社に従事していませんでしたので、仕事上での義父と夫の対立が理解出来ませんでした。私は実の両親のように慕っていましたし、両親と夫の仲を何とか良い方へ向かうようにと願っていましたので、孤立している夫の苦悩に気付きませんでした。


パートナーとなって会社を守ってほしいと夫に言われて入社してから、やっと彼の気持ちが理解出来るようになりました。後継者の妻として仕事を始め、人事や経理などあらゆる業務をこなす中で、経営者である両親の考え方の矛盾に疑問を持つようになりました。


あらゆる面で両親と夫の考え方の違いが一目瞭然でした。義父と義母には経営者としての揺るがない自信がありましたが、経営権はあってもほとんど引退状態でしたので、会社の内情や将来の不安などは理解しづらかったと思います。


会社の将来を案じて私自身、両親に背いたこともありました。時代の流れとともに企業のあり方も変わってきます。実際に経営に関わっているのは私ども夫婦でしたので、同業者の過当競争や価格破壊などの現状の中、夫は冷静な目で会社の将来を懸念していました。


結果的には創業者を説得し、M&Aを成功させて会社を売却することが出来ました。もちろん夫が一番案じていた52名の従業員の就業も今までと同じ条件で保障されました。もし同族中小企業でなかったら、両親と夫の仲はもっとうまくいったと思います。そして私も良い嫁で過ごせたのかもしれません。


同族中小企業の経営者だからこそ、夫は立ち向かわなければならない諸問題を抱え、ひとつひとつ整理し、最終的には両親と自分の家族の将来も守ってくれました。あらゆる場での夫の決心は、やはり間違いなかったと確信しています。


現在、私共は売却後第2創業から20年目を迎えました。夫の事業のアシスタントを努めながら私も今までの経験を活かし、現在キャリアカウンセラーとして活動しています。自分のやりたい仕事にめぐり会え、古希を射程距離としながらも、充実した日々を過ごせることに感謝しています。夫婦お互いに相手を理解し尊敬できるのは、やはり二人でいろいろなことを乗り越えてきたからではないでしょうか。


後継者夫人の皆様、大変失礼な言い方かもしれませんが、後継者でいらっしゃるご主人様は、奥様が思っていらっしゃるよりも、事業承継に対しての不安をお持ちかもしれません。ご主人の立場を理解されるためにも、このブログが皆様のお役に立てばと願っております。