人生100年時代のM&A物語

49才の時父親が創業した会社を、父親在命中にM&Aで売却。その後、売却益で第2創業。売却決断実践から20年の経営者人生を綴ります。

創業者と後継者の売却額の思い その1

売却時の決算状況は流動資産(一年以内に現金化できる資産)だけで全ての負債を一掃でき、さらに、一億円の内部留保(現金・預金)が残る経営状況でした。


みなさんの会社にとって、運転資金に充当できる一億円の内部留保は、高額ととらえられない数字かもしれませんが、我が社のような零細企業にとっては、銀行に返済することのない一億円は高額な運営資金にあたるのです。一億円の内部留保に加え、土地・建物等で一億五千万円の固定資産もあったのですが私は売却を決断しました。


後継者不在のオーナー経営者が、ハッピーリタイアを目的としてM&Aで会社売却を決断すると、売却益は余生の生活資金に充当されるようです。一方後継者がM&Aで会社を売却しても、売却額だけで余生を送るということは難しいかもしれません。


オーナー経営者のハッピーリタイアの時期は高齢になってからの決断であり、ほとんどのケースが既に年金受給者になっているのではないでしょうか。年金生活に、会社の売却益が加算され余生を送ることができるわけです。


一方、後継者がM&A売却を決断するのは、後継者の実子がまだ自立していない時期ではないでしょう。年金生活にはまだほど遠く、我が子の教育費や生活費もままならない時期であるかもしれません。


私のM&A決断は四十九歳の時です。父は七十八歳で既に年金受給の年齢でした。父は、代表取締役会長という肩書きはあっても、実際は母と二人暮らしで悠々自適の生活でした。


私のM&A決断時は、長男が高校生、長女が中学生、二男が小学生と三人の子を抱え、子供の養育費や教育費、そして生活費をカバーするには、売却益だけでの生活生計は困難というのが実感でした。


M&Aによる売却額の合意は、オーナー経営者、後継者それぞれがおかれている、将来の生活設計によって左右されるのではないでしょうか。


当然のことながら、売却額は売却側経営者の生活環境で決まるのではありません。中小企業においては、多くの場合「時価純資産価額法」という手法で売却額の基本価額が決められます。


時価純資産価額法とは、会社が保有している資産の時価から負債を控除した額をもって企業価値とする方法です。帳簿の価格を時価に換算し算出します。算出された売却額に対し、売却するか否か、創業者と後継者ではその思いは違うものです。


その2に続きます。