人生100年時代のM&A物語

49才の時父親が創業した会社を、父親在命中にM&Aで売却。その後、売却益で第2創業。売却決断実践から20年の経営者人生を綴ります。

自社の進路が見えれば承継者が見える 後編


前編からの続きです。


前編で3つの戦略を説明しましたので、残るは多角化戦略です。


多角化の選択には2つの道があります。既存事業の一部門として多角化を進めるか、別会社で多角化(第2創業)を行うかという選択です。さらに、別会社の設立は、既存会社が出資する別会社か、後継者が個人で出資する別会社か、という二者択一です。私は後者の道を進みました。


知的資産報告書は、後継者が先代経営者から事業を承継するか否か、の判断ツールとして活用できます。知的資産報告書を作成するにはSWOT分析が役にたちますので少し説明してみましょう。


SWOT分析は事業環境分析で、内部環境と外部環境で分析します。自社の経営資源の活用についてアイデアを練る手法です。自社の「強み」と「弱み」を内部環境としてとらえ、一方の「機会」と「脅威」を外部環境としてとらえます。強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)を整理分析するものです。SWOT分析が済んだ後、今度はクロス分析を行います。


クロス分析とは、強みと弱みから一つと、機会と脅威から一つを選んでそれぞれを掛け合わせ戦略を作る作業です。次図で説明すると以下の4通りになります。


① 強みを活かす事業機会は何か
② 弱みを強みに変える機会は何か
③ 強みをいかすことで脅威を最小限におさえられないか
④ 弱みを克服し脅威が降りかかってくることを回避できないか。


SWOT分析やアンゾフの戦略、さらには、MBAや中小企業診断士の資格を取得している後継者は、さらに高度な経営戦略と知的資産報告書を摺りあわせ、自らの事業承継診断手法とすることも可能です。知的資産報告書を媒体として、自社と自らの行方を決断して下さい。


前述のSWOT分析を活用するときにも二つの活用方法があります。知的資産報告書で活用するSWOT分析は、自社の強みと弱みを基盤とした分析です。一方、私のように、組織を持たずに一人で起業する(出直す)場合のSWOT分析は、自分に対する個人の強みと弱みの分析です。


SWOT分析を活用する上で企業としてのSWOT分析であるのか、個人としてのSWOT分析であるのかという考え方は、M&A売却は競業避止が条件ということに起因しているものです。M&A売却後の競業避止とは、売却事業に関連する事業を営む企業への転職や、起業は、ご法度という取り決めです。


私の競業避止期間は株式譲渡契約の日から30年と定められています。このため、売却後新しく設立する会社では、全く新しい事業が求められ、私個人の強みと弱みを基盤としたSWOT分析にて、株式会社メルサの起業基盤を事業承継支援としたのです。


知的資産報告書を先代経営者と後継者が作成することにより、先代経営者の経営理念とビジョンの現在位置がわかります。先代経営者の掲げるビジョンが今どこまで進んでいるのかを知り、そのビジョンの現在地から、今度は、後継者が10年後、20年後のビジョンを作成できるか否かが問われます。


10年後、20年後の自社のあるべき姿を立案できない後継者は、後継することを諦め、別の道を歩むこと考えみてはいかがでしょうか。


早めに決断したことによって他社に転職し、別の道で生き甲斐を見つけている後継者もいます。後継者として従事している期間が長ければ長いほど、見切りをつける決断が出来ず、破綻するまでズルズルとしがみついてしまっています。早めの決断ができれば、生き延びる様々な方法が見つかりますので、知的資産報告書を早い段階で作成し、後継者自らの事業承継診断に活かしてください。