人生100年時代のM&A物語

49才の時父親が創業した会社を、父親在命中にM&Aで売却。その後、売却益で第2創業。売却決断実践から20年の経営者人生を綴ります。

取締役「妻」というM&Aの偉大な協力者 その2

その1から続きます。


M&A成立時に備え、実印や、銀行印、小切手帳、手形帳を私の管理下においておかなければなりません。M&Aの実務を創業者が手伝うということはいっさいありませんでしたが、取締役社長室長として間接部門を統括している妻は、この状況にどのように対処すべきかをちゃんと心得ていたようです。


ある時を境に妻は、小切手、手形の振り出しをすべて会社で行うようにし、実印と銀行印も会社で管理できるように業務を移行させたのです。私以上に創業者夫妻から信頼が厚かったのが妻でしたので。この行動様式をイメージしていただければ、「取締役妻」とネーミングした私の思いが読者の皆さんにも伝わるのではないでしょうか。「取締役妻」の偉業はこれだけに留まりません。


M&Aはすべて秘密保持で進められます。このため、私の会社売却のM&A担当者は社長だった私以外にいません。つまり、社内では私と妻以外にM&Aが進んでいることは誰も知らないのです。M&Aを進めていくうちには、秘密保持の難しい状況の中で、通常の支払いにはないM&Aに関する支払いも発生します。


さらに、私は常に会社にいるとは限りませんので、私の不在中にM&Aの必要書類の準備や様々な事務手続きがが発生します。通常の事務と、M&Aの準備が重なっていたわけです。通常の事務にないM&Aに必要な書類準備を事務員に指示すれば、不可解な業務に様々な憶測が飛び交ってしまいます。


中小企業のM&Aでは、経営者が自ら窓口を担当しなければなりません。経営者一人が東奔西走するには限界があり、どうしてもサポーターが必要になります。わたしの場合は、有能なM&Aの秘書として妻が存在し、側面の業務を全て取り仕切ってくれたのです。


さらにある時から、M&Aの葛藤とストレスからくるそれまでにないわたしの荒々しい言動に、家庭内も暗く、家族それぞれが苛立つ険悪なムードの日が続きました。その険悪な雰囲気を取り払ってくれたのも妻の平常心です。子供たちに不安や動揺を与えることなく、経営者としてのわたしと、家族の大黒柱としてのわたしを、いついかなるときも信頼し、どっしりと構えた姿勢は、まさに経営者以上の器であったと言えます。


わたしの偉大なる秘書として、家庭においては偉大なる母親として、取締役「妻」という肩書があっても良いのではと思えるほどの活躍でした。


M&Aに限らず、男性が社長を務める偉大なるサポーターは妻です。いや、わたしだけでなく創業者の経営を思い起こしてみると、彼にとっての偉大なるサポーターは、私の母である創業者の妻であったこともしみじみと思い知らされました。創業者の陰にも、やはり、創業者より器の大きい妻という偉大な存在があったのです。


その3に続きます。