人生100年時代のM&A物語

49才の時父親が創業した会社を、父親在命中にM&Aで売却。その後、売却益で第2創業。売却決断実践から20年の経営者人生を綴ります。

取締役「妻」というM&Aの偉大な協力者 その1

会社の経営において、経営者の「妻」の存在やその能力が語られることは少ないようです。私の経営していた会社は同族でしたので、大方のスモールカンパニーの構成のように、私の妻も取締役のひとりでした。肩書は「取締役社長室長」というもので、社員総数52名の中で女子事務員5名のリーダーとして、事務、経理、総務の間接部門を担当していました。


M&A(自社売却)成立時には、実印や、銀行員、小切手帳、手形帳等の引き渡しをおこなわなければなりません。読者のみなさんには理解しがたいことかもしれませんが会社の経理は2名の事務員と税理士が担当しており、数々の決済は会社の事務室ではなく創業者である私の父の自宅でおこなわれていたのです。私の手元には銀行印や小切手帳、手形帳などはなく、全てが創業者の管理下にあったのです。


結果的には、M&Aが進むとともに、銀行印、小切手帳、手形帳、そして会社実印も私の管理下に置かれるようになり、必要な時期にスムーズに買収側に渡すことができました。しかしそこには、私の妻の偉大なる功労と、忍耐があったのです。


常日頃から私は、私の会社には経営革新が必要であることを妻にも言い続けていました。業界、営業、社内の人事等は掌握できているが、肝心な財務面での決定権と決裁権を創業者に掌握されていることの弊害を訴え続けていたのです。


妻はわたしと結婚する前は日本航空の客室乗務員をしていました。十年も乗務した経験からサービス教育は一流のものですが、いかんせん小切手や、手形という経理実務には門外漢だったのです。しかし、負けん気と粘り強さをもった妻は知識の習得が早く、しかもわたしより創業者からの信頼が厚く、次第にそれらの業務を任せられるようにきたのです。


ただし、それらの実務は会社ではなく、いつも創業者の自宅で行われていました。