人生100年時代のM&A物語

49才の時父親が創業した会社を、父親在命中にM&Aで売却。その後、売却益で第2創業。売却決断実践から20年の経営者人生を綴ります。

ライオンの子育てに学ぶ事業承継

保険金不正請求で巷を賑わしているビックモーター。会社を駄目にした元凶は創業者の息子である副社長の経営力不足というマスコミの報道もあります。創業者であり父である創業社長が息子を過大評価し経営者としての素質を見誤り、会社経営を放任してしまったことも原因のひとつのようです。


「若いときの苦労は買ってでもせよ」という名言があります。「若いときの苦労はあとあと必ず役にたつという意味です。しかし、若いときに苦労を進んでしようという後継予定者は一握りかもしれません。


ライオンは我が子を崖から突き落とし、這い上がってきた子だけを育てるという昔からの言い伝えがあります。社長業とは決断業です。「孤立を恐れない」ということは、諸事に対し一人悩みに悩みぬき、他に惑わされることなく、自力での問題解決の為の決断を要求されるということです。


しかしながら、現経営者が最高意思決定権者となっている時期の後継予定者は、修羅場を自力で解決するという経験が少ないものです。全ての後継者がそうとは言えませんが、経営者としてヌクヌク育ってしまうというウィークポイントがあるようです。私自身がそうであったのかもしれません。


崖から突き落とし、這い上がってきた子だけを育てると伝えられているライオンの子育てですが、後継者教育にも充当すべき点が多々あります。温存体質で後継者教育を施しても、経営の知識はあっても現場での経験がないため、修羅場を迎えた時、温存体質で教育を受けた後継者は、打つ手を見出せず、会社を存続させることができなくなってしまうのです。現況のビックモータースに当てはめてみてください。


創業者である父のカリスマ性で事業を拡大してきた非上場企業の二代目は、常に創業者と比べられ自分を見失ないがちです。また、30代という若い時期に役員に就任するケースが多く、次期社長候補なので誰も耳の痛いことは言わず、媚を売っているケースが見受けられ、本人は「裸の王様」にもちあげられていることに気付きません。


私の父は、「金は出さない」「口は出す」「決裁権は与えず」「自ら責任は取らず」おまけに、銀行印と会社実印は自宅で父自らが保管するという形で、後継者の私を崖から蹴落としました。究極の後継者教育の始まりでした。(2022年12月27日付「創業者が与えてくれた四つの気づき」参照)


しかし、私は崖から這い上がり、会社の存続と発展の手段として、M&A売却という結論を出したのです。この結果、崖から這い上がってきた私のM&A売却決断に対し、父も潔く私の決断に異議を唱えることはありませんでした。


今になって思うことがあります。創業者の父は、事業承継対策を行っていなかったことに対し悩んでいたのではないか、ということです。


当時の私は、個人的な資金余裕などありませんでしたから、経営権を取得するための自社株相続で発生する相続税の捻出をどうするか、という事を、父が思い悩んでいた様子をふと思い返すことがあるのです。


そんな父の悩みの最中、父が準備した後継者実践教育の壁を乗り越えてきた私が、M&A売却を決断したため、父もM&A売却に反対しなかったのかもしれません。M&Aが成功すれば相続税の問題もいっきに解決します。後は、私が次のビジネスをどのように開拓し生計をたてていくか、という問題だけだったのです。