人生100年時代のM&A物語

49才の時父親が創業した会社を、父親在命中にM&Aで売却。その後、売却益で第2創業。売却決断実践から20年の経営者人生を綴ります。

創業者の頭の中だけにある株主名簿、ボケたらどうする 前編

事業承継しようとしている同族中小企業では、自社株式が分散しているケースが多いのではないでしょうか。分散した株式でも先代経営者のツルの一声で自社株式のとりまとめができると考えているようですが、困難を極めることが多いのも事実です。それでも名義株の株主がわかっていれば良いのですが、経歴の長い会社では株式が拡散しており、株主が誰であったかわからなくなってしまっているケースが多いのです。


私の売却した会社においても株主の調査は難儀を極めました。父でさえわからなくなっていたのです。私が自社株の質問をしても回答がなく、先送りになっていた原因は、拡散している株主の調査が面倒くさかったのであろうと推測できました。株主が判明しなくとも経営上は差し障りがありません。さらに、自分が他界してしまうなどということもまだまだ先のことと思い、いつの日か調査してみようという、簡単なふまえ方で問題を先送りしてしまっていたのです。父は、自社株式の整理をしなくとも、大した問題になるとは想像していなかったのかもしれません。私自身も問題意識を持たなかったのです。


私の会社の経営支配権を持っている株式は父と母の持株です。その母が2003年6月19日腎臓病で他界し、その3日後の6月22日、母を追いかけるかのように、今度は父が肺炎で他界していったのです。信じられないような二人揃っての他界の現実でした。


私は、父と母が他界する前にM&Aで会社を売却していましたので、株式の調査は事前に済んでおり、自社株の相続税も不要となり、当然経営権という問題で頭を悩ますことも回避できました。しかし、M&Aを選択せずに、突然、父・母の他界と相続に遭遇していたならば、相続税納税の資金調達ができず、他界を機に経営が傾きはじめていたかもしれません。


実はM&A売却成立の半年後、元気だった父が突然、認知症を発症してしまいました。記憶が正常なうちに株主の調査を行いましたので、株主の調査も難航はしましたが判明することができました。さらに、経営支配権をもつ父と母が、同時に他界するなどとは考えもしないことが現実として起こりました。


株主名簿のない同族中小企業の株式名簿は、先代経営者の頭の中にあります。その頭の中にある記憶が抹消されてしまったならば、正確な株主もわからず、事業承継や、相続時に支障をきたすことになります。先代経営者が何の対策も講じずに認知症を発症してしまうと、介護の問題に付け加え、会社を経営する後継者にとっては、「事業承継の頓挫」という問題が立ちはだかることがあります。大半の後継者は、事業承継で遭遇する出来事を鮮明にイメージできず漠然ととらえているため、先送りしているのです。


私の会社売却の目的は売却益で事業をやり直すことでした。
会社を売却し第2創業することで、別会社の持株比率で私が筆頭株主で創業者になり、父は一社員となる究極の相続税対策と事業承継策です。父から私への事業承継の後M&Aで売却し、相続税の発生を回避し、且つ、売却益で第2創業を果してしまうという、斬新な新しい発想による経営革新でした。


運も味方し、うまく事が運びました。売却した会社の大株主は父でしたから、株式売却益の大半も父の銀行口座に貯蓄されます。私が全ての売却益を管理し、第2創業の資金に充当するという合意が、父と交わされ、父の通帳(M&A売却のため開設した口座)を私が管理し、第2創業の準備が進められていました。


ここまではいいのですが・・・



後編に続きます。