人生100年時代のM&A物語

49才の時父親が創業した会社を、父親在命中にM&Aで売却。その後、売却益で第2創業。売却決断実践から20年の経営者人生を綴ります。

過去の経営手法に立ちはだかる壁 前編

消費生活用製品安全法という法律があります。
事業者は「製品欠陥の有無に関わらず、重大事故の発生を知った日から起算して十日以内に監督官庁に報告しなければならないというものです。


意図的に隠した場合は制裁が待ち受けています。意図的に経営者が隠そうとしても、いつかは内部告発で大問題になってしまうご時世です。


私が売却した会社において、工場作業員が業務用大型乾燥機に腕を巻き込まれ瀕死の重傷を負う事故がありました。従業員の不手際から起きた事故でしたが完治まで数年かかる重症でした。


救急車の出動から、労働基準監督署及び警察に自動的に連絡が行き、現場検証後、機械の入替や整備点検指導等、私も徹底的に追及を受け精神的にも労力的にも、そして機械整備、点検義務の浸透の為の資金力にも悩まされたことがありました。


製品の欠陥による重大事故以外でも、あらやる業界、業種の企業が摘発されています。その全てが内部告発に端を発していると言っても過言ではありません。破綻に至ったケースも多数ありました。破綻を免れた企業でもトップ交代を余儀なくさせられています。


同族中小企業で、同族以外の人物にトップが交替するということは、経営者一族の生計の源を剥奪されるということです。


内部告発される企業の大半は成熟期の企業です。発展期の企業では社員に士気があり、社長以下社員が一丸となって目標に向かって進んでいきます。しかし、成熟期に入ると多くの社員が「自分の役割」や「求められ成果」がわからなくなってしまい、経営陣だけが旨みを得ていると判断してしまい、内部告発というお土産を持って退社していくのです。


お土産の持参先は監督官庁やマスコミです。旧来は一社員の密告をマスコミが鵜呑みにして取り扱うことはなかったのですが、時代は変りました。マスコミ各社は内部告発の話題を歓迎し、弱い立場の中小企業の社員に成り代わり、経営者の不正を正す行動に出てくるのです。


私にも内部告発と似たような苦い体験がありました。私の過去には、様々な起業体験がありますが、そのひとつに社会福祉法人の設立がありました。この法人は様々な施設を設立拡大し順調に経営が進んでいました。


しかし、規模が大きくなっていくにつれ、役員間の内部分裂が始まり、役員間の批判が内部告発という形に発展し、怪文書も流れ、私自身にも火の粉が降りかかってきたのです。法人設立から十三年目の成熟期のときです。この紛争は地元紙でも取り上げられる始末です。


当事者は私ではなく言いがかり的な中傷でしたが、この内部紛争に巻き込まれてしまい、このときも精神的にはかなり参ってしまいました。この中傷が私の本業へも影響することを危惧しましたが、法人の理事をいち早く辞任することでこの紛争から抜け出ることができました。


自分と相手の見解の違いで内部告発は思わぬところから発生します。見解の違いという壁が立ちはだかり、優良企業が瞬く間に奈落の底に突き落とされ、売れる価値のない会社になってしまうのです。


後編に続きます。