人生100年時代のM&A物語

49才の時父親が創業した会社を、父親在命中にM&Aで売却。その後、売却益で第2創業。売却決断実践から20年の経営者人生を綴ります。

単一事業の好調で「ゆでガエル」になった命とりの経営 その2

その1から続きます。


しかし、そうこうしているうちに、シルバーサービスを手がける企業が増えてきました。高齢化率の高い地方都市という事もあって、介護保険を見込んで、大手企業はもとより多数の企業が参入してきたのです。私は、何度もシルバービジネスでの新事業参入を検討したのですが、当時でも、介護業界は創生期とはいえすでに参入している企業もあり、新たなシェア獲得を図るにはすでに時期遅し、と判断したのです。


ホスピタルリネンリース事業で支えられている私の会社の経営に対し、多くの人がその事業の優位性を評価していました。病気は世の中からなくならないから、この事業は永遠に不滅であるというのが大方の評価でした。しかし、隣の芝生はきれいに見えるのかもしれません。


当時、社会保険適用で成長してきた病院寝具のリース事業は、保険は適用されているものの基準寝具という独自名称の保険適用が廃止され、入院環境料として新たに他の項目と合体しました。このため、寝具に対する独自の保険点数(保険点数一点が10円として換算)もあいまいになり、価格破壊がはじまってきたのです。もう一方の保険点数であった病衣は、すでに社会保険点数からかはずされ、本体の病院寝具リース事業そのものの破綻が猛スピードで訪れる兆しを見せていたのです(現在はリネンサプライ業から離れているため保険点数がどのようになっている定かではありません)。


ホスピタルリネンリース事業だけに依存することなく、新事業への投資やホテルリネン、ユニフォームリネン事業への投資を進めていたならば、不採算部門になると予想されるホスピタルリネンリース事業から撤退し、ホテルリネンや、ユニフォームリネン、さらには新規事業による会社の起死回生も可能だったはずです。しかしながら、いかんせん事業の柱が単一しかない会社では、不採算部門からの撤退は、即倒産ということに結びついてしまうのです。


企業経営者にとっては、剰余金の内部留保も重要なことの一つですが、新事業による経営の多角化、新商品開発、新たなサービスとなるビジネスモデルへの投資によって、単一経営のリスク分散を図ることも重要な仕事なのです。本業に余力のあるうちに、剰余金を新たな事業構築に投資することと、剰余金の内部留保の充実とのバランスをとることがより重要であることを、しみじみと感じさせられました。


既存の単一事業の好調がゆえに、わが社が「ゆでガエル」になっていく状況に気づくのが遅れ、新事業着手のタイミングが遅れてしまいました。残念ながら私の新事業計画は実現されることなく、結果的にシルバービジネスを第二の事業の柱にすることはできませんでした。