人生100年時代のM&A物語

49才の時父親が創業した会社を、父親在命中にM&Aで売却。その後、売却益で第2創業。売却決断実践から20年の経営者人生を綴ります。

自社の進路が見えれば承継者が見える 前編

自社の進むべき道を決める一つの手法として、ここでは、アンゾフの企業戦略に知的資産報告書と事業承継の問題を重ね合わせ、自社の出口を判断する一つの方法を述べてみます。


アンゾフの企業戦略は、イゴール・H・アンゾフという経営学者により、1965年に出版された企業戦略論の中で示されているものです。アンゾフのマトリクスとして、製品を旧市場と新市場に区分し、市場を新市場と旧市場に区分した、次の4つの戦略として知られています。


①市場浸透戦略(旧製品で旧市場の浸透)
現在の市場で、現在取り扱っている製品の販売を、さらに強化する戦略です。現市場で既存商品をより多く買ってもらえるよう、商品のラインアップの充実、シェアアップなどで対応しようとするものです。


②市場開拓戦略(旧製品で新市場を開拓)
現在の製品をより大きな市場に拡大し、新しい顧客を開拓しようとする成長戦略です。例えば、東北で販売している製品を全国で販売、国内で販売している製品を海外にも販売するなど、とにかく市場を開拓しようとする戦略です。


③製品開発戦略(新製品で旧市場への売り込み)
既存の顧客層に向けて新製品を開発して販売する成長戦略です。現在の市場の強みを生かそうとする成長戦略で、全く新しい製品開発の他、モデルチェンジやバージョンアップで対応します。


④多角化戦略(新製品で新市場を目指す)
新しい製品分野、市場分野に乗り出し、新しい大きな市場に拡大する多角化です。新規分野に参入するため、既存事業のブランド力が通用しません。多角化戦略は本業を離れた事業展開で成長しようとする戦略です。


旧製品で旧市場への浸透を図るのか、旧製品で新市場を開拓するか、新製品で旧市場への売り込みを図るか、新製品で新市場を目指すか、どの戦略を選択するのかということです。M&A売却から別会社で第2創業という私の実践を,アンゾフの戦略に重ね合わせて説明してみましょう。


売却した会社にも様々な知的資産がありましたが、私が一人で自社の将来像を頭の中に描き始めたとき、知的資産が時代遅れになっていたことに気が付いたのです。


売却した会社の事業のひとつの強みは許認可事業でした。許認可の必要条件として必要な、関連団体への加盟や、基準に添った工場改築を施し取得した、医療関連マル適マーク等、巨額の投資をしてきたのですが、規制が緩和される危惧があったのです。


顧客となっている国公立病院等の大口取引先からの受注は、規制緩和から価格破壊による営業戦争の兆しも見せていました。さらに、生産上の知的資産となっている連続洗濯システム(洗濯から仕上げまでを一連化させた機械のシステム)も、さらに高度なシステムへの設備投資が求められ、資金面での不安が消せなかったのです。


市場浸透戦略は既に当地では90%以上というシェアでした。当地での営業拡大が見込めないものであれば、当地以外に営業の矛先を向けていきます。しかし、当地からさらに営業網を拡大する市場開拓戦略を考慮しても、全国に同業者が乱立しています。無鉄砲に市場を開拓していっても体力を消耗するだけで、満足なシェアの確保は困難となり、コストだけが嵩(かさ)んで行く恐れがありました。


次に考えるのは製品開発戦略ですが、リネンサプライ業に関連する商品開発にも限度がありました。その限度とは私の商品開発へかける意欲であったのかもしれません。


リネンサプライ業とは病院やホテル、旅館に寝具、タオル等(リネン製品)をリースする事業ですが私にとって天職ではなかったからであると回顧しています。


後編に続きます。