人生100年時代のM&A物語

49才の時父親が創業した会社を、父親在命中にM&Aで売却。その後、売却益で第2創業。売却決断実践から20年の経営者人生を綴ります。

廃業も売却もできない中小企業の出口

自社の行方を決めるのは「社長」の選管事項です。私が第3者に会社を譲る決断をしたのは、後継者となった私一人の決断です。周りには様々なアドバイザーが存在しましたが、終極M&A売却は、社長である私の選管事項とふまえていました。


将来の会社の行方を考える時、多くの経営者は手っ取り早く、顧問税理士に相談するのではないでしょうか。数字上での会社の経営状況の現状チェックや、数値目標を作成する上で頼りになるのは顧問税理士です。しかし、自社の行方を決めるには、数字上のチェックとプランニングだけでは不十分です。次の5つの動向について経営者自らが分析し決断しなければなりません。


① 業界動向
② 社内動向
③ 銀行動向
④ 顧客動向
⑤ 自社株式の動向(行方)


この5つの動向に付け加え、事業承継を考えるものであれば、後継者の後継意欲が付け加わります。身内承継、社員への承継、そしてM&Aについての事業承継の問題点は、本ブログのいたるところで記述していますので、ここでは先代経営者と後継者の気遣いという視点からとらえてみましょう。後継者の後継意欲とは別時点で先代経営者は一人悩むのです。


M&A売却が最良の決断としても、我が子を後継者として入社させたからには、他社に経営権を移すとは言えないのです。それ相当の株式を後継者に移行していなければ、M&Aで売却したとしても、売却益を手にするのはオーナー経営者だけとなり、後継者の株式保有がなければ、後継者を無一文で放り出すことになるかもしれないのです。


先代経営者が手にした売却益を後継者に譲れば多額の贈与税が課せられます。私の場合は贈与ではなく相続でトラブルが発生しました。遺産分割協議が済んだ2年後に税務調査を受け、姉に追徴という現実がありました。生前贈与時や相続時どちらであろうとも、税務署の調査を甘くみてはいけません。必ず突き止められます。


では、廃業したらどうでしょうか。


自分一人なら、預金と年金で余生はなんとかなると先代経営者は思います。しかし、自分は何とかなっても、後継者として我が子を自社に迎えいれたからには、自分から廃業を後継者に伝え、後継者を路頭に迷わすことはできないと考えるのです。


M&A売却も、廃業も、先代経営者の後継者を思いやる心から、決断のタイミングを遅らせてしまうことになります。先代経営者の後継者に対する思いやりの心が決断遅れとなり、「仇(あだ)」となってしまうかもしれないのです。


一方、後継者は、本当に家業を継ぎたいと思っているのでしょうか。


別の仕事に就きたいのだが、先代経営者の期待に逆らうことはできないという思いで、事業承継に至っている後継者もいるのではないでしょうか。承継する会社が自分に適しているか否かわからないが、事業を承継する予定で家業に従事しており、今はなんとか家計が維持できているので、漠然と家業に勤務している後継予定者もいるのではないでしょうか。


私は、承継した事業が天職でないことに、ある時から気付いていました。天職どころか下手をすれば、承継した事業が破綻し、破綻すれば、父と私が連帯保証している金融機関からの借り入れの返済ができなくなります。終極は、父の余生を送る預金もなくなるものと判断したこともあり、後継者である私主導でM&A売却を決断したのです。


事業承継の最大ポイントは、先代経営者から後継者に対し、いかにして経営支配権を承継するかということに尽きると思います。そのためには先代経営者との協議が必要です。話し合いの結果、M&Aや廃業が妥当という結論がでるかもしれませんし、後継者の再生にかける意欲と実力で、事業を存続発展させていこうとする、頼もしい意欲が感じられるかもしれません。


事業承継を予定している同族中小企業の先代経営者と後継者に対し、早い機会に事業承継を語り合う機会を持つことを、何度でも、私は強く提唱し続けているのです。