人生100年時代のM&A物語

49才の時父親が創業した会社を、父親在命中にM&Aで売却。その後、売却益で第2創業。売却決断実践から20年の経営者人生を綴ります。

後継社長夫人のM&A啓蒙

3月末で修了したNHK 朝ドラ「舞い上がれ」。主人公の父が社長を務める会社で父が急逝し、その妻が社長になるシーンがありました。自分たちが生き延びる手段としてM&Aで会社売却をしようとした内容が記憶に残っています。


私は妻と共にM&A売却に挑み、夫婦協働で現在の株式会社メルサを第2創業しています。M&A決断から、実務、そして第2創業と順調に推移してきましたが、ふと考えることがあります。


私が売却を決断せずに、万が一、私が先に他界する事態がおきたならば、私達一家の生計はどのようになっていただろうか、ということです。ここでは家業を営む一族において、後継者が他界したケースとして、一家の生計のあり方を想定してみたいと思います。


売却時の私の家族は、妻と二人の息子、そして娘の5人家族です。血縁関係は、創業者の父と彼の妻(私の母)、そしてシングルマザーの姉が一人という相続構成でした。


このような親族関係の中で、私が妻より先に他界したならば、妻が路頭に迷う恐れがあります。第三者的な考え方でとらえると、妻の義父であり私の父である会長が、私の亡き後、妻と子の生計が維持できるように、ナビゲートし、社長の座の後押しをしてくれるであろうと期待するものですが、現実問題として、期待するように事が運ぶでしょうか。


中小企業においては、影武者的な妻の存在は大きな効用がありますが、夫がトップの座につき、妻が陰で支援するという前提です。その夫がある日突然他界し、影武者であった妻が社長に就任したからといって,夫に比肩できるリーダーシップが取れるかといえば難しいものがあります。男尊女卑をいっているのではありません。同族中小企業の経営環境には,机上論で理解し難い様々な物語があるのです。


後継社長に万が一のことがあった場合、後継者夫人がM&A売却の決断を下せるものならば素晴らしい英断となるかもしれません。


私が売却した会社においては、父が80パーセントの持ち株者であり、妻は創業者から見れば無血縁関係者です。私が他界したからといっても、裸で追い出すようなことはしないでしょうが、生活設計はどのようになってしまうでしょうか。


私が自社の将来を危惧しM&A売却を決断したように、妻が決断し、M&Aを提唱したとしても,父は聞く耳を持たないはずです。それこそ激怒し、妻と子を追い出したかもしれません。


父と私は血縁関係がありますが、父と血縁関係のない妻は、私がその間にいてこそ、一族としての関係が構築されているのかもしれません。


家業を営んでいない一般の人には理解できない問題かもしれませんが、同族中小企業を営んでいる先代経営者と後継者の一族は、このことに関して無頓着ではいけません。特に後継者は目を背けずに、万が一の対応を講じておいていただきたいのです。


後継者が先に他界した時、妻とその家族が路頭に迷わないようにするための一つの方法として、妻がM&Aの概要を知識として知っていて損はありません。損のないどころか、M&Aの知識は万が一の保険的役割を果たすからです。