人生100年時代のM&A物語

49才の時父親が創業した会社を、父親在命中にM&Aで売却。その後、売却益で第2創業。売却決断実践から20年の経営者人生を綴ります。

自社の値段


「M&Aを決断したものの、自分の会社はいったいいくらで売れるのだろう???」


中小企業のM&Aは売り手と買い手の合意で売買価格が決定しますが、そのタタキ台が必要となります。このタタキ台になるのが「企業評価書」であり、第三者が客観的に算定したものが基本となります。


中小企業の企業評価の多くは、一般に「時価純資産価格」に「営業権」を加算したものが適用されます。時価純資産額とは、帳簿上の資産を時価に修正した総額から負債を差し引いた金額を指します。


現金・預金は帳簿価格では変動はありませんが、修正の必要のある資産を帳簿価格ではなく、時価に修正するということがM&Aでは求められます。勘定科目ごとに評価時点での適正価格に修正され、資産の総額をはじきだすことで企業評価書が作成されます。


さらに、M&Aには「営業権」という試算が計上されます。M&Aでの営業権はそれなりの考え方と計算方式がありますが、営業権は無形の資産なので通常の決算書には現れない資産でもあるわけです。


私が売却した会社の営業権は、過去三年間の決算書から価格がはじきだされましたが、企業評価における営業権の価格については、アドバイザーの考えに基づいた算定価格を参考に、価格交渉時に自ら営業権の対価の根拠を示し交渉すればよいものと考えていました。というのも、その根拠となる説明で営業権の額が変動すると考えたからです。


経営者が自らこの交渉を行うためには、常日頃の経営状況を的確に熟知しておかなければなりません。企業評価は決算書による数字を時価に修正した第三者の評価額ですが、営業権の価格は企業評価をするM&Aのプロでもすんなりといかないものかもしれません。


各企業における営業権の対価は、数字で的確に計上できるものではなく、経営者自身が日頃の業務から分析しておくものではないでしょうか。毎日自社の経営に従事し、経営に係わるすべての実体を大所高所から見渡し、同時に各種の経営要素を把握し続ける積み重ねのある経営者だけが、自社の営業権の価値と、その根拠を示すことができると私は思っています。


経営者本来の能力は、M&Aを実践してみるとよくわかります。中小企業においてM&Aの実質担当者は社長ひとりであり社長の「交渉力」次第で、売却額が高くも安くもなってしまうのです。


M&Aでは、たとえ自社の経営内容に関してわからないことがあったとしても、部門担当者を呼んで説明させるというわけにはいきませんので、自ずと経営者の経営全般にわたる資質が試されることになります。(前回投稿の「売却担当者は社長一人です」を参照ください)企業評価は「経営者の通信簿」的存在であり、買収側は企業評価書という通信簿によって相手企業の経営者の能力とともに、譲渡企業の価値を計ることになるのです。


「それでは、いったいいくらくらいなら会社を譲渡してもいいのか・・・」


企業評価書が仲介会社から届いた時点で、経営者は自らその譲渡額を決断しなければなりません。譲渡希望額を決定するのは仲介会社でも、買収側企業でもなく、ひとえに売却側の経営者自身だからです。