人生100年時代のM&A物語

49才の時父親が創業した会社を、父親在命中にM&Aで売却。その後、売却益で第2創業。売却決断実践から20年の経営者人生を綴ります。

後経営権のない後継者の自惚れ

私が売却した会社の経営権と代表権を説明しましょう。売却時の役員は、創業者である父が代表取締役会長、後継者の私が代表取締役社長、取締役に母と妻という、典型的な同族中小企業の役員構成でした(父母は既に他界しています)。


私が売却した同族企業の役員構成を知り、みなさんはどのように思うでしょうか。社長は私ですが、代表権が父と私の二名です。ここに私の会社の事業承継がうまくできなかった理由の本質があります。社長は私であり、会社の代表権は後継者である私と、創業者である父にありますが、経営権は私ではなく父にあったのです。


最高意思決定権者は誰かという問題は、同族中小企業の経営構造を知る上で重要なことであり、経営権に無頓着がゆえに生ずる様々な問題を、多くの同族中小企業が抱えているのではないでしょうか。


この問題に対し、現経営者が自社株式の大半を所有し、経営を支配しているということに後継者が気付き、様々な問題意識を持った時に、問題解決への一歩が進むものです。恐ろしいことは無頓着でいることです。無知は恐ろしいことですが、知ろうとしないことはもっと恐ろしいことなのです。


経営者と後継予定者が真にふまえるべき問題は、後継者が独り立ちできる経営環境であるか否かということです。


会社の代表権は登記簿謄本で確認できますが、経営権は登記簿謄本では確認できません。経営権を取得するには自社株式の三分の二以上の保有が必要です。中小企業の事業承継では代表権よりも経営権は誰にあるのか、ということが重要なポイントになります。


大半の同族中小企業では、現経営者が代表権と経営権を保有しているのが一般的です。代表権と経営権は法的な問題が絡むのですが、企業の経営を担う存在として現経営者と後継者の間には、親子という関係以外に、経営上の師弟関係が存在します。


当時の私は、経営に対するうぬぼれが強く、経営上の偉大な師として父親をみていなかったことに後で気づかされました。いまさらですが、その気づきを順次説明していきたいと思います。