人生100年時代のM&A物語

49才の時父親が創業した会社を、父親在命中にM&Aで売却。その後、売却益で第2創業。売却決断実践から20年の経営者人生を綴ります。

域経済に波風を立てない基本合意契約 後編

前編からの続きです。


私の会社は、偶然にも同業者へ譲渡することができました。同業者であれば、私の会社は経営者と組織が変わるだけです。これならば、従来どおり同業界間の営業競争を続けるだけで、他の業界からの影響は回避されます。


私の行動は、M&Aには似つかわしくなかったかもしれませんが、「自分さえよければいい」という考えにはなれなかったのです。裏を返せば、私の場合は、それだけ余裕のあるM&Aだったのかもしれません。


地域経済に波風を立てないというこだわりがありましたので、数社とお見合いをするものの積極的な進展には結びつかず、やっと条件を満たす良縁に巡り合えたのは数か月後のことでした。


そこから基本合意契約までにおよそ四十日間かかり、そして成約に至りました。良縁はトントン拍子で進むといますが、この四十日間は、まさにこの言葉を実感させられました。


基本合意契約の締結は、私のM&Aアドバイザリーである仲介会社の一室で、同センターの代表と二名のスタッフが同席するなかで行われました。


基本合意契約の締結には、大手企業である譲り受け側企業から三名の役員が出席し、一方、売却側の私の方は妻だけを同行し契約に臨みました。妻は私のM&A成功の陰の立役者でもあったからです。


基本合意契約の締結は本契約ではありませんが、婚約が成立する「結納」に当たります。もし、複数の候補者と話しを進めていたなら、この時点で身辺を整理し、婚約者にあたる企業だけに絞って結婚までの話しを進めていくことになります。


基本合意契約の締結後、帰路、新幹線の発車を待つ間に立ち寄った東京駅の地下レストランで妻と二人でささやかに乾杯したビールは、ひとときとはいえ、久しぶりに精神的プレッシャーから解放されたときの格別の味でした。


しかし、本契約の日も二〇日後、そのための買収監査も三日後と決まり、本当にひとときの解放になってしまいました。