過去を振り返り、創業者の偉大さを思い知らされることがあります。後継者教育の暗黙のメニューを私に提示してくれただけでなく、後継者の身でありながら私が独断した、自社の売却提言を受け入れてくれたのです。

「若いときの苦労は買ってでもせよ」という名言があります。「若いときの苦労はあとあと必ず役にたつという意味です。しかし、若いときに苦労を進んでしようという後継予定者は一握りです。できるものであれば「苦労」などしたくないのが本音でしょう。

後継予定者が苦労を「買いたくない」としても、本物の経営者になるために必要なものであれば、現経営者が後継者に与えなければなりません。

ライオンは我が子を崖から突き落とし、這い上がってきた子だけを育てるという昔からの言い伝えがあります。

社長業とは決断業です。「孤立を恐れない」ということは、諸事に対し一人悩みに悩みぬき、他に惑わされることなく、自力での問題解決の為の決断を要求されるということです。

しかしながら、現経営者が最高意思決定権者となっている時期の後継予定者は、修羅場を自力で解決するという経験がありません。コミュニケーション中心の交友というスタンスが多く、経営者としてヌクヌク育ってしまうというウィークポイントがあるようです。

ヌクヌク育ってしまう温存体質の後継予定者が、自社を存続発展させるための経営者になるためには、常に最良の方法を｢自らの頭｣で考える習慣と強靭な精神力、そして、その精神力を作る基盤となる、健康維持が必要です。

孤立を恐れない源は「健康」です。健康でなければ後継者として一番重要な「最良の決断」ができなくなってしまいます。健康は、経営者の単なる状態ではなく、経営者の能力、可能性、そして将来性を含む資質として取上げられている時代です。

崖から突き落とし、這い上がってきた子だけを育てると伝えられているライオンの子育てですが、後継者教育にも充当すべき点が多々あります。

一般的に言えば、温存体質で後継者教育を施す懸念があるかもしれません。経営の知識はあっても現場での経験がないため、修羅場を迎えた時、温存体質で教育を受けた後継者は、打つ手を見出せず、会社を存続させることができなくなってしまうという危惧があります。

私の父は、「金は出さない」「口は出す」「決裁権は与えず」「自ら責任は取らず」（下記※注１を参照ください）おまけに、銀行印と会社実印は自宅で父自らが保管するという形で、後継者の私を崖から蹴落としました。究極の後継者教育でした。

しかし、私は崖から這い上がり、会社の存続と発展の手段として、Ｍ＆Ａ売却という結論を出したのです。この結果、崖から這い上がってきた私のＭ＆Ａ売却決断に対し、父も潔く私の決断に異議を唱えることはありませんでした。

※注１
この内容は「♯事業承継いばら道」１２月２７日の「創業者が与えてくれた４つの気づき」で投稿しています）