人生100年時代のM&A物語

49才の時父親が創業した会社を、父親在命中にM&Aで売却。その後、売却益で第2創業。売却決断実践から20年の経営者人生を綴ります。

相続税対策の不備は死活問題 その2

その1から続きます。


相続対策の問題を創業社長と顧問税理士に質問すると、創業社長は無言のままですし、一方の顧問税理士は「時折その進言をしたのですが・・・」という、言葉しか返ってきません。相続税が会社の経営問題に発展するであろうことに対し、私を含め誰もが悠長に構えてしまっていました。


創業時からある本社工場の土地・建物は全てが会社名義ではなく、父と母の名義分があり、これらを相続することになれば、私にそれ相応の相続税が課せられます。もし相続を放棄すれば、本社工場は他人に渡ってしまい会社の経営も危うくなりますので、是が非でも私は全てを相続しなければなりません。土地・建物等、現金以外のものを評価額に換算されて相続するものにとっては、なんとも厳しい現実です。


相続税問題の発覚と同時に、約三百坪ある本社工場敷地の中に、区画割と所有権者がまちまちという複雑さが加わり、さらには権利書も紛失しているものがあるなど、M&Aを進めるうえで頭の痛い問題が次々に発生してきました。


生前贈与の場合に税金がかからない当時の基礎控除額は、毎年一人当たり百十万円でしたが、私には家族もあり、その家族も同時に百十万円の基礎控除を受けることが可能です。私の場合は五人家族ですから、毎年五百五十万円までは税金を払わずに贈与を受けることができます。さらには、多少の贈与税を支払っても、相続税対策としてさまざまな方法を講じることもできます。


会社を存続させなければならない立場に至ってはじめて、私は相続に対する長年の無策ぶりを大いに反省しました。このことは反省に留まらず、会社を手放す要因のひとつとなってしまいました。


ときとして相続は、親子間の身内だけの問題で収まらない場合もあります。そうなれば、たちどころに会社の経営権を左右する事態にも発展します。そうならないためには、後継者(予定者)は、相続の対象となる全ての事業資産を現経営者と共にチェックし、顧問税理士とともにその対策を立てることが重要です。


 相続税ということに対しては、現経営者は「まだまだ先のことだ」と問題を先送りし、後継者(予定者)は「現経営者が対策を練っているであろう」と、相続対策の責任を現社長に転嫁し、お互いに無頓着でいるのが現状かもしれません。