人生100年時代のM&A物語

49才の時父親が創業した会社を、父親在命中にM&Aで売却。その後、売却益で第2創業。売却決断実践から20年の経営者人生を綴ります。

経営者は社員の人生を預かっている その2

その1からの続きです。


社員の給与が閉ざされる危惧のある状況のひとつに、「後継者不在」という問題があります。会社に後継者がいなければ、現経営者に万が一のことがあった場合、その会社は頓挫してしまいます。


私がM&A売却に悩んでいた時に肩をポンと押してくれた日本M&Aセンターの分林会長(当時社長)。今ではM&Aの第一人者です。分林会長が、以前、事業承継に関する雑誌インタビューで、中小企業の事業承継の難しさについて次のように答えていました。


「後継者不在の中小企業は全体の六十六%、つまり三社に二社で後継者がいない状態と言われています。子供が継がない場合、多くの経営者は社員に継がせようと考えますが、多くはあきらめることになります。仮に無借金経営の場合、社員はその会社の株を買う財力がないし、借金が多ければ個人保証を誰がするのかといった問題がでてくるからです。」


事業承継の手段は、「身内への承継」「社員への承継」「M&A」の三パターンがありますが、前述のような場合どうすればよいのでしょうか。後継者不在の諸問題を解決できずに、万が一存続をあきらめることになった場合、社員は路頭に迷ってしまいます。しかし心配はいりません、後継者不在の問題を解決する最良の手段としてM&Aがあるからです。


私のM&Aは後継者不足ではなく、後継者として事業を承継したものの、将来展望が見えずにいたことが売却決断のひとつの理由です。会社の経営を続行するか否か悩んでいたとき、私は社員の人生と生活を預かっているということを再認識し、自分の体裁やプライドだけで経営者として留まるべきではないと判断したのです。


「意欲の持てる給与体系は会社成長の原動力になる」と理解していても、そのためには増収増益が不可欠であり、減収減益の下で「意欲の持てる給与体系」を実践すれば、確実に経営を圧迫します。さらには、将来的にも減収減益の予測しかできない経営体力では。社員の人生を預かるどころか、社員を裏切りかねません。


後継者不在も含め、将来的にも社員の人生を預かることができないと判断するのであれば、経営者は社員の人生を託すことができる経営者を探し求め、社員の収入を保証する手立てを考えなければなりません。それができない経営者は、それまで人生を預けてくれた社員を、最終的に裏切ることになってしまうのです。