人生100年時代のM&A物語

49才の時父親が創業した会社を、父親在命中にM&Aで売却。その後、売却益で第2創業。売却決断実践から20年の経営者人生を綴ります。

経営者は社員の人生を預かっている その1

経営者が会社の存在意義を考えるときに、福利厚生の充実や社内の環境整備以上に配慮しなければならないのが社員の給与です。社員は生きるために働いているのであり、給与は社員と家族の生活設計の基盤になるものです。当たり前のことですが、経営者たるものは、いかなる理由があろうとも、社員に対して給料の遅配や未払いがあってはなりません。


私の経営していた会社では、創業以来、売却決断までの三十八年間、給料の遅配や未払いなど一度もありませんでした。賞与にしても、支給額の高低はありますが、八月と十二月の定期賞与、そして三月の決算賞与と、年三回の賞与を遅配なく支給してきました。


しかしながら、私が経営者として従事していた最後の決算期は、減収減益の成績でした。このような経営成績ですから、私が経営者の立場であり続けていたならば、私は以後の賞与を大幅にカットするか。支給そのものを停止しなければならない状況を迎えていたかもしれません。


ところが、会社売却後に私と交代した経営者は、買収側の大手企業から派遣されてきたこともあり、大手企業に準じた賞与基準で、私が査定していた従来の基準よりも増額して支給してくれたのです。


「意欲の持てる給与体系や賞与体系は会社の成長に比例する・・・」。さまざまな経営書にも書かれていることですが、この言葉は私が会社経営の第一線に従事し、常に肌で感じてきた実感です。


「仕事は給与の額ではない、給料が低くとも生きがいが感じられればいい」という人もいます。でも、本当にそうでしょうか。給与は生活設計の基盤であり、人々の生きがいは安定的な資金の上に成り立っているはずです。満足な給与を得られなければ、生きがいどころか生活の基盤さえ失ってしまいます。


社員の生活向上も、生きがいも、精神的余裕も、全ては満足な収入が根底にあることは間違いありません。言い換えるなら、「経営者は、そこで働く社員の人生と生活を預かっている」ことになるのです。万一、経営者の責任で社員の収入の道が閉ざされたたなら、社員はたちどころに生活の基盤を失い、家族ともども路頭に迷うことになります。それだけ経営者の責任は重いのです。


その2に続きます。