人生100年時代のM&A物語

49才の時父親が創業した会社を、父親在命中にM&Aで売却。その後、売却益で第2創業。売却決断実践から20年の経営者人生を綴ります。

朝礼で社員に説いた5つの約束

社長が社員と約束したものは必ず実現しなければなりません。約束とその実現は相互のコミュニケーションと信頼性から生まれます。社長と社員のコミュニケーションの重要性に異議を唱える社長はいないはずです。いつの時も、中小企業の社長は積極的にコミュニケーションをとろうとします。そして、無差別に社員とのコミュニケーションを行おうとしがちですが、ここで注意が必要です。


コミュニケーショをただ単に無防備に行い本気で取り組むと、会社がおかしくなってしまうこともあるということです。社員とのコミュニケーションを本気で行なっていくと、様々な要求を背負うことになります。全ての要求を、無差別に実現させてくれる経営者はどれだけ存在するのでしょうか。要求が実現すればよいのですが、実現しないと無言で経営者に不審感を覚えるようになり、対立していきます。


私はM&A売却を決断した時に、社員との約束すべきことを朝礼で発表しました。私からの一方的な約束の内容でしたが、社員の仕事環境と生活設計の向上を実現させるための約束でした。


① 給与体系と昇給条件を社員全員が理解し、納得できるように整備すること。
② 夏季のクリーニング工場は、朝から温度が上昇し、一日蒸し暑さの中での作業を余儀なくされているが、冷房効果の高い工場環境を作りあげること。
③ 各職場に余裕のない社員数のため、有給休暇が取りにくい労働であるので有給が取りやすい環境を作ること。
④ 年間休業日を増やすこと。
⑤ 様々な福利厚生を充実させること。


以上五項目の公約を社員に告げ、この公約に対し半年後に実現又は何らかの目処が立たなければ、私は社長の座を降り、この公約を実現できる第三者に社長の座を譲るという考えでした。社長の私が自らの社長人生を捨てるという背水の陣で経営に臨むので、社員も会社の要求する目標の実現に貢献してほしいという訴えだったのです。


私の売却した会社の朝礼は休業日以外、毎朝八時三十分から全ての社員が工場内に集まり行なっていました。私はこの公約の浸透を目指し、必ず自ら機会を見つけスピーチを行っていました。大手企業に勤務する社員にとっては、前述五項目は当たり前のものととらえるかもしれません。しかし、私が売却した会社においては、前述五項目を実現させる資金調達の壁が立ちはだかり、当たり前でなくなっていたのです。
蒸気が充満している工場に、冷房設備を導入するには大がかりな設備工事が必要です。年間休業日を増やし有給を増やすには、社員総数を増やし機械化を行わなければなりません。やみくもに給与体制を明文化してしまうと、人件費の高騰に売り上げが追いつけないことも考えられます。


蒸し暑い工場作業ながら会社にはシャワーの設備もなく、着替えのためのロッカールームもありませんでした。創業から三十八年経過した、職場環境の整備には新工場の設立かリニューアルが必要です。私が公約するまでもなく社員は無言ながらも改善を望んでいることは理解できます。公約を果すには数億円の資金調達が必要でした。業界の斜陽化も懸念する中、この公約は私一人には正直なところ荷が重すぎました。


しかしながら、この約束はM&Aで果たすことができました。明日「社員との約束をM&Aで果たす」のタイトルで投稿します。