人生100年時代のM&A物語

49才の時父親が創業した会社を、父親在命中にM&Aで売却。その後、売却益で第2創業。売却決断実践から20年の経営者人生を綴ります。

創業者に鍛えられた最強の説得力

M&A売却決断時の私は経営権がなく、まだ最高意志決定権者ではありませんでした。しかし、経営権がなくとも説得力がつきました。父が私に与えた後継者教育の実践メニューに対し、挫折を繰り返しながらも乗り越えることで身につけた「最強の説得力」でした。


「いま会社を売却しなければ我が社は終極倒産してしまう」、という説得を父に行ったのです。以前(後継予定者当時)のように、父に対し批判ばかりの後継者から脱し、「孤立」することも恐れないという私の気迫と、後継者教育のメニューをこなすことで培ってきた経営力と説得力が父に通じ、評価されたのであろうと思っています。


後継予定者は「苦労を自ら買う」という経営環境を求めてください。自ら実践する苦労が大きければ大きいほど、回数が多ければ多いほど、後継者は強くなります。最高意思決定権者へ脱皮するための経営権の取得や事業承継計画に対して、現経営者からの申し出を待つというスタンスではなく、後継者が現経営者を説得に動き出すという気迫と説得力が身につきます。


温存での後継者教育に甘えず、孤立を恐れない後継者育成は、独り立ちできない後継者対策への対応という点で最強の手段となるはずです。先代経営者が与える後継者教育という試練を、後継者が挫折を繰り返しながら乗り越え、後継者主導の自立した経営が実現したとき、事業承継の様々な問題が、一つずつ解決していくのではないでしょうか。


私は創業者である父から、究極の後継者教育のプログラム(このプログラムについては12月27日の「創業者が与えてくれた4つの気づき」をご覧下さい)を与えられ、そのメニューを全てこなした後、自ら後継者の座を降り第3者に譲りました。父が与えてくれたメニューをこなすうちに、経営環境の厳しさを自分の肌で感じ取り、自分の見栄や欲で会社を引き継ぐことよりも、身内以外の者に会社の将来を託すことを決断したのです。


私は全国の同族中小企業の現経営者に対し、私の実例のように、子息である後継者を崖から突き落とす後継者教育の必要性を提唱します。後継者を崖から突き落とし、這い上がってきた子息だけを後継者として考えてみてはいかがでしょうか。崖から突き落とす後継者教育プログラムのメニューは現経営者が企画しなければなりません。


現経営者が自社を育成してきた経営環境よりも、数倍も生き残りが難しい現代です。崖から後継者を突き落とし、這い上がって来れないのであれば、遅かれ早かれ、何がしかの餌食となってしまい、淘汰されてしまう可能性が強いのです。


 後継者が這い上がってきたならば、子息に自社の将来を託す話し合あいの場を設けてはいかがでしょうか。後継する意思があるのか、無いのか、私のようにM&A売却で出直すのか、腹を割って話し合うのです。


後継者が究極の事業承継教育メニューをこなし這い上がってくるガッツと力量があれば、将来を託す決定権はあくまでも後継者にあります。逆に這い上がれないのであれば、子息への承継はあきらめた方がいいのかもしれません。現経営者主導で他者への事業承継を決断しなければなりません


大手企業が合従連衡で合体し生き残り策を模索している時代です。体力の弱い小さな会社が従来のように子息に事業承継し、一社だけで生き延びることが困難な時代とも言い換えることができます。


現経営者は自社の存続と発展を誰に託すのでしょうか。